英語を少し話すことはできる。
でも、相手の言っていることが全然聞き取れない——。
何度も教室やコーチングを試し、何度も挫折した一人の女性。
そして、彼女と出会った一人のコーチが、
たった3ヶ月で“英語耳”の扉を開けた話。
聞けなかった英語が、聞こえた日。
3ヶ月で“英語耳”を手に入れた実話
約8年前、僕が短期間で英会話力を向上させるコーチングサービスの会社で働いていたとき、ひとりのお客さんが訪ねてきました。
そして開口一番、こう話し始めたのです。
お客さん:「最近、仕事で英語を使う機会が増えてきたんです。私はもともと積極的な性格なので、“出川イングリッシュ”みたいな感じで言いたいことは何とか英語で言えるんですが、外国人が話す英語がまったく聞き取れないんです。これまで何軒も英会話教室やコーチングを受けてきましたが、どこに通っても聞き取れるようになりませんでした。御社のサービスを受ければ、英語が聞き取れるようになりますか?」
僕は短期間で英語力を効率的に伸ばすことを専門としていましたが、この質問にはすぐに答えられませんでした。
理由は2つあります。
1つ目は、当時の会社がリスニング力だけに特化したサービスではなく、スピーキングとバランスよく伸ばす内容だったこと。
2つ目は、その方がなぜ英語を聞き取れないのか、その原因を把握しなければ的確なアドバイスはできないと考えたからです。
そこで僕は、こう質問しました。
僕:「これまで英語学習を続けてこられたとのことですが、ご自身では、なぜ英語が聞き取れないと思いますか?」
お客さん:「いや、それが分からないから来てるんです。なぜ聞き取れないのか分からないから、アドバイスをもらいに来たんですよ。」
お客さんの表情には、少し苛立ちが浮かんでいました。
それもそのはずです。「なぜ聞き取れないのか」が自分で分かっていれば、とっくに改善に向けて行動しているはずです。
僕は先ほどの質問を反省し、もっと具体的な切り口で聞くことにしました。
僕:「英語を聞いているとき、頭の中ではどんなふうに理解していますか?」
お客さん:「まず英語を聞いたら、一つずつ日本語に訳して意味を理解するようにしています。」
この答えを聞いた瞬間、僕は「なぜこの方が英語を聞き取れないのか」をほぼ完全に理解しました。
しかし、それをそのまま言葉にするのは危険です。
率直に言えば、「日本語に訳しながら聞いている限り、一生英語は聞き取れない」ということだからです。
そんなストレートな言葉は、きっと受け入れてもらえません。
そこで僕は、共感を交えてやんわりと切り出しました。
僕:「もしかして、こんなことってよくありませんか?例えば『先週末は何をしましたか?』みたいな短い質問なら聞き取れるけど、相手が2〜3分ずっと話し続けると、途中から何の話をしているか分からなくなる…そんな経験です。」
お客さん:「そうそうそう!!それ!!なんで分かったの!?心を読まれたみたい!」
僕:「僕も英語学習を始めた頃、まったく同じ経験をしました。
英語を一文一文日本語に訳して理解しようとすると、3文目あたりから限界がきます。
なぜなら、1つの文を訳している間に、もう次の文が耳に入ってくるからです。処理が追いつかなくなるんです。」
お客さん:「え?じゃあ中野さんは、英語を聞いたら日本語に訳さずに理解しているってことですか?」
僕:「そうです。例えば “Nice to meet you.” と聞いたとき、わざわざ『初めまして』と訳さずに、瞬時に意味が分かりますよね。
英語は英語のまま理解する——そんなフレーズを増やしていく必要があるんです。」
お客さん:「なるほど…。分かりました。中野さん、私はあなたの言うことなら何でもやります。だから3ヶ月間、私を英語が聞き取れるように指導してください!」
本来、僕の会社のサービスはスピーキングとリスニングをバランスよく鍛えるものでした。
それでも僕は上司に掛け合い、特別に「リスニング特化」の3ヶ月間の指導をすることを認めてもらいました。
初回セッション
僕:「まずは英語の音声を一文ずつ再生して止めてください。そして日本語を介さずに、英語のまま理解する練習をしましょう。」
お客さん:「え?そんなことでいいんですか?実際の会話ではCDみたいに止めたりできないし、それが訓練になるんですか?」
僕:「確かに、会話は止まりません。でも今のやり方を続けても、日本語に訳す癖は抜けません。
まずはその癖を取る必要があるんです。これは歯の矯正と同じで、時間をかけて習慣を矯正する作業なんです。」
お客さん:「なるほど…。よく分からないけど、中野さんを信じてやってみます。」
こうして、僕とお客さんは「一文ずつ止めて理解する」練習を繰り返しました。
初回セッションを終えたあと、お客さんは少し不思議そうに言いました。
お客さん:「面白いトレーニングでした。でも、なんだかムズ痒い感じもします。
いつもは聞こえてきた英語を、頭の中で映画の字幕みたいに並べて、お尻から訳しているんですが、今日は頭から理解しようとしたので変な感覚でした。」
僕:「それで正解です!日本では英語を日本語に訳すとき、文末から訳すように教わります。
でもリスニングでそれをやろうとすると、最後まで聞かないと意味が分からない。
逆に、聞こえた順に頭から理解できれば、会話をリアルタイムで追えるようになります。」
お客さん:「なるほど〜!!そういうことか!説明がうまいですね!」
僕:「うまいんじゃなくて、僕自身が全く同じ壁にぶつかったから、説明できるんです。」
このあともお客さんは、激務の中で毎日2〜3時間は英語を聞く練習を続けました。
「3ヶ月で必ず聞き取れるようになる。これでダメなら一生無理」とまで言い切り、本気で取り組んでくれました。
ディクテーション(書き取り)の導入
次のセッション。
僕:「今日は英語を聞いて書き取る練習をしましょう。」
お客さん:「え?日常会話でそんなことしませんよね。それに意味あります?」
僕:「あります。書き取ると、自分が聞き取れていない音が分かります。
例えば “I can take care of him.” が “I can take care him.” になってしまうなら、“take care of” という塊を知らない。
もし “I can take care オビム?” なら、“of him” の音のつながり(リエゾン)が聞き取れていない。
つまり、自分の弱点が一目瞭然になるんです。」
お客さん:「なるほど…。弱点を見つけて直すわけですね。英語の聞き取りって、歯の矯正みたいなものだって言った意味が分かってきました。」
成長の波と不安
2ヶ月目、お客さんが弱音を吐きました。
お客さん:「頑張ってきましたけど、知らない話題だとやっぱり全然聞き取れないときがあります。それに、気を抜くと日本語に訳してしまいます。」
僕:「分かります。今は弱点を潰す修行みたいな時期です。成長は波があります。
でもこの方法を続ければ、確実にリスニング力は上がります。ぶれずにいきましょう。」
最終セッション
最終日、扉を開けるとお客さんは満面の笑みを浮かべていました。
お客さん:「先週の金曜日、ジムで英語のCDを聞いていたら、突然、日本語を介さずに全部英語で理解できたんです!
別のエピソードに変えても、どれを聞いても全部聞き取れました!」
僕:「ついに“ゾーン”に入りましたね。本当に努力した人だけがたどり着ける境地です。」
お客さん:「翌日はゾーンに入れませんでしたが、一度あの感覚を経験できただけで大満足です。
これからもこの方法で練習すれば、自分で意図的にあの状態に入れると思います。」
僕は心から嬉しかった。
3ヶ月で完全に安定して聞き取れるまでには至らなかったけれど、あの笑顔こそが努力の証。
この経験が、僕にリスニング指導の大きな自信を与えてくれました。
あの日、彼女は「英語を英語のまま理解できる」という新しい世界の扉を開いた。
それはたった3ヶ月間の挑戦で手に入れた、小さくても大きな勝利。
完璧ではなくても、一度その感覚を知った人は、もう二度と元の自分には戻らない。
英語は才能ではなく、正しい方法と積み重ねで必ず伸びる。
そして、その変化はある日突然やってくる。
後書き
今回のストーリーでは、途中のセッションをだいぶ省略して書きましたが、実際にはシャドーイングや音読など、あらゆるリスニング学習法に挑戦してもらいました。
そして、限られた時間の中で学習を継続できるよう、徹底的にスケジュールを組み立て、日々の生活そのものを英語学習に捧げました。
文章の中で、どれほど彼女の努力を描き切れたかは分かりません。
けれど、僕はその3ヶ月間ずっとそばで見てきました。
疲れていても、忙しくても、言い訳をせず机に向かい、耳を傾け、声を出し続ける姿を。
“英語耳”は、偶然手に入るものではありません。
彼女がそれを掴み取れたのは、才能でも、特別な環境でもなく、
日々の積み重ねと、自分を信じ続けた強い意志があったからです。
だからこそ僕は、こう伝えたい。
あなたも必ずできる。
その日を迎えるために——今日から一歩を踏み出そう。
本気で英語が聞き取れるようになってみたい方は中野に直接メッセージください。対面でのリスニング指導ができるように最近ノイズキャンセリングのヘッドフォンを買いました。

リスニング特化プログラムは特別ですが、お話をお聞かせいただいてお力になれると思った場合はサポートさせていただきます。まずはお気軽にメッセージください。
ちなみに英語学習コーチ時代の中野へのインタビュー記事はこちらです。